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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)798号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人奥野健一、同伊豆鉄次郎の昭和四四年七月一七日付上告理由書記載の上告理由第一点及び同板持吉雄、同山口伸六の上告理由第三点第一について

建物につき改造が施され、物理的変化が生じた場合、新旧の建物の同一性が失われたか否かは、新旧の建物の材料、構造、規模等の異同に基づき社会観念に照らして判断すべきであり、右建物の物理的変化の程度によつては、新旧の建物の同一性が失われることもあり得るのであり、このことは、賃貸借の目的物である建物につき改造が施された場合にその同一性を判断するに当たつても同様であるところ、原判決は、被上告人が上告人高垣博一に対して賃貸した本件建物につき改造が施されはしたが、その改造による物理的変化いかんにかかわらず建物の同一性は失われず、右建物を目的とする賃貸借契約が引き続き存続しているものと判断した上、本件建物の賃料の不払を理由として右契約を解除し、右建物の明渡しを求め得るとしたものである。しかし、前記のとおり本件建物につき施された改造による物理的変化の程度いかんによつては、旧建物が滅失し、新建物が生じたとされ得る余地もあるのであり、そうとすれば、新建物につき新たな賃貸借契約の成立があつた旨の被上告人の主張、立証がない本件において、旧建物の賃料の不払を理由として旧賃貸借契約を解除し、新建物の明渡しを求めることができないことは、いうまでもない。したがつて、原審がこの点を審理することなく、被上告人の請求を認めたのは、審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわなければならない。

よつて、論旨は、理由があるから、他の上告理由に対する判断をまつまでもなく、原判決は、破棄を免れず、建物の同一性の有無、賃貸借の継続の有無などについて更に、審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊)

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